テコンドーの理論

 世の中に存在する武術・格闘術にはそれぞれ固有の技術を実現する為の動作上のメソッド(原理・方法)
が存在し、それを実践する事でその武術、格闘術の特有の技を実現する事ができるのです。

どんな武術・格闘術でも、その闘技を行っている最中でのフットワーク、姿勢にも実践している武術・格闘術
の特徴的な動作が現れ、その動作の中に固有のメソッドが生かされているのです。

 テコンドーにおいても同様であり、テコンドーがテコンドーである為のメソッドがあります。
テコンドーは老若男女問わず、人間として秘めている力を100%引き出し、それを攻防に利用する事を基本
としています。

 一般の人間は、己の持つ能力の10〜20%位迄しか引き出せないと言われていますが、テコンドーのメソッド
は100%の力を引き出す事を目的に組み立てられています。これは超人的な力や特別な精神を養う事ではなく、
本来持っている潜在能力をテコンドーのメソッドに則った修練を行う事で顕在化させるものなのです。 

少年誌の様に人間が地を割ったり、天を裂いたりする事は物理的に有り得ない事なので念の為。。。

テコンドーの完成された技は驚異的な威力を持つと言われますが、その根拠はテコンドーのメソッドに基づき
自身の体内にある全ての力の要素数学的、科学的方法を用いて一斉に集中させる所にあります。

テコンドーの100%の力を引き出す「力の要素」は、


「反動力」
「集中」「バランス」「呼吸法」「質量」「速度」

と全部で6つ存在します。

この6つの要素を動作の中で集約し、発揮させる事にテコンドーの極意があると言っても過言ではありません。

下記はテコンドーの力を生み出す6つの要素を形成する理論と実践技術との関連について記述致します。

1. 反動力  ニュートンの「運動の三法則」の第三(作用・反作用の法則と呼ばれる、二体間の相互作用を規定する法則)によれば全ての力はそれと等しい反対の力を持っているとされる。
 テコンドーは実践において「相手側からもたらされる反動力」と「自身の持つ反動力」を利用する事に注目している。
 前者は相手が自分に対して突進してくるならば、軽い打撃を相手の頭に加える事だけでも相手の頭を打つ力は「相手の突進力」+「自身の打撃力」という事になる。打撃系格闘技に見られる「カウンター」が絶大な威力を発揮するのは正にこの力を利用しているからに他ならない。
 後者では、チルギ(突き)を行う時、右拳でチルギを行う瞬間に自身の左拳を腰に引き戻す事により、右拳を突き込む力に左拳を引き戻す力が加わり、打撃力を増大させる事が可能になるという実践例を挙げる事ができる。 チャギ(蹴り)においても、特にパンデ・トルリョチャギ(後ろ廻し蹴り)は、回転力と、それをインパクトの瞬間に引き戻す時に発生する反動力を組み合わせる事により大きな威力が実現されているのである。
2. 集中 ゴムホースから放出される水は穴が小さいほど強く勢いよく遠くまで飛ぶ様に、一点に集中された力は非常に効果の大きいものになる。
テコンドーにおける集中とは2つに分けらる。
 1つ目は己の身体全体の筋肉、特に腰と下腹部の筋肉の力を使用する部位に集中させることである。重要な点はインパクトの瞬間に使用部位に力を集中させる事である。
 2つ目は1つ目で使用部位に集中させた力を目標の急所に集中させる事である。

 テコンドーの最大の打撃力は体全体から搾り出された力が攻撃、防御時の使用部位に集中され、攻撃対象たる相手の身体や物体の急所にピンポイントで炸裂する事で実現されるのである。
3. バランス  テコンドーではバランスが完璧でなければ防御の効果も攻撃の決定的打撃力も発揮できない。安定したバランスは重力、かかと、膝関節の弾力により生成されるが、動作に伴う身体の重心が常に安定した位置にある事を必要とされる。
 テコンドーのバランスは静的安定(物体が動作している時の安定)と動的安定(物体が静止している時の安定)に分かれるが、最大の力は動的安定を通過して静的安定が成される時に発生する。
動作の初めから終わりまで完全なバランスが取れてこそ最大の打撃力を生み出すことができるのである。
4. 呼吸法  呼吸の調整により粘りと速度が増進し、相手からの強い打撃にも耐えられる。
最大の力は動作と呼吸の一致した時に生まれる。攻撃または防御する部位のインパクトの瞬間に息を「シュッ」っと歯の間から短く鋭く吐き、その動作が終わった後にゆっくり息を吸う。
 相手から攻撃を受けた瞬間に息を吸い込むと打撃力が直接身体の中まで浸透してしまい、甚大なダメージを受ける。大きな痛みを伴い失神する可能性も高い。しかし、同じ打撃力を受けても上記の様に息を吐いた状態では打撃を受けた箇所から衝撃が拡散するのでダメージは最小限に抑えられ、痛みも和らぐ。連続動作を除き、「一動作に一呼吸」である。
5. 質量  数学的に考察すると最大の運動エネルギー、すなわち力は質量と速度から得られ、

これを科学的に捉えると
F = 
MA (Fは力、Mは質量、Aは加速度)
または
P = MV (Pは運動量、Mは質量、Vは速度)
となり質量と速度が正に力に直結している事が理解できる。

テコンドーにおける質量は自己の体重の事であり、力が放出される箇所である攻撃、防御時の使用部位がインパクトを迎える瞬間に最大限の体重が目標に注ぎ込まれる事により実現される。
 従って打撃を行う動作の間に体重が増加される事が極めて重要になる。
腹部の筋肉がねじられて付加的な身体の運動量を提供し、腰は攻撃または防御手段と同じ方向に回転する。更に膝関節、バネの利用により動作の初めに重心点となる臀部を少し上げ、攻撃または防御のインパクトの瞬間に、これを下げる事により体重が力に変換されて目標に作用する事となる。(この動作を「サインウェーブ」と言い、テコンドーの力を生み出す基本的な動作である)
6. 速度  力を出す上での重要要素は速度(スピード)である。 上記5項目の質量の解説にある様に力の源泉として質量と共にスピードが必要不可欠なのである。故に質量が同じでも速度が増せば打撃力たる力は比例して上昇するのである。

 力学的エネルギーの原理によって物体は上から下に落ちる時に重量と速度が増加する。この原理がテコンドーの実践においても重要であり、より強い力を出すには攻撃、または防御する部位を目標より高い位置から振り出す、または打ち出さなければならない。そして、速度が最大に達した所でインパクトを迎えるのが理想となる。
 速度の増加においては反動力、集中、呼吸法、バランス、筋肉の柔軟性等が要素となり、これらが相互に調和し、柔らかくリズミカルな動作となる時に初めて威力が発揮されることとなる。

 テコンドーを実践していて力不足を感じる時には、上記6つの要素が動作中で反映されているか否かを
確認する事が重要です。

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